就業規則の作成を社会保険労務士以外が行うことができるか? ~業際問題について私が思うこと

いわゆる業際問題というものがあります。

士業には独占業務というものがありますので、
この業務は社会保険労務士以外はできないのか?
ということが他士業との間で争われることがあります。

就業規則についてもそのような争いが起きています。

社会保険労務士法27条により就業規則の作成
が社会保険労務士の独占業務か?という問題です。

とりわけ、従業員数10人未満の会社の就業規則作成で議論があるようです。

ここで、法的に就業規則が社会保険労務士以外が行えないのか?
に関して私はコメントをするつもりはありません。

私はそのような立場の人間ではないからです。

ただ、私の事務所は就業規則の関連業務で
99%を超えます。

時間で考えると、毎年、就業規則の関連業務で
2000時間(多い年は2500時間)以上を費やしてきました。

就業規則の専門家といって良いと思います。

その就業規則の専門家の立場から見て、
この議論には一つ必要な視点が
抜け落ちているのではないか?

そう思うことがありますので、
そのお話をさせていただきます。

※なお、他の法律で「社労士業務」を行うことを
認められている専門家もいます。

以下では、そのような法律がないケースの話をしています。

就業規則の作成は社会保険労務士以外の他士業は行ってはいけないのか?を考える際に必要な視点

「クライント企業(お客様)にとって何が1番良いか?」という視点です。

お客様視点で考えた場合、私は、以下の点を考える必要
があるのではないかと思っています。

1.就業規則作成の過程で生じる労使協定作成業務は社会保険労務士の独占業務である

2.労働法の専門知識がないとクライアントにとって不利益が生じる場合もある

詳しく見ていきましょう。

1.就業規則の作成過程で生じる労使協定作成業務は社会保険労務士の独占業務である

就業規則を作成していると、その過程で、
労使協定を作成して結ぶ必要がでてくることがあります。

労使協定とは何か?については以下の記事をお読みください。
労使協定とは何か~就業規則との違いをご説明できますか?

例えば、休日は就業規則の絶対的記載事項です。
就業規則に記載しないといけません。
言うまでもないことですね。

しかし、完全週休二日制が難しい会社も中にはあります。

そのような会社の場合は、1年単位の変形労働時間制
という制度を導入することもでてきます。

その場合には、

1年単位の変形労働時間制の『労使協定』を締結し、
労働基準監督署へ提出する必要があります。

この1年単位の変形労働時間制の労使協定
を締結する会社は全体から見ると少数かもしれませんが、

労使協定の中にはほとんどの会社が
結ばないといけないものもあります。

例えば、社員に時間外労働を行わせる場合には
36協定という労使協定を締結し労働基準監督署
へ提出する必要があります。

時間外労働を一切させない会社は少数でしょうから
36協定の締結・提出はほとんどの会社で必要になります。

この労使協定については
他(社労士法以外)の法律で行うことが認められている専門家を除けば、
社会保険労務士の独占業務です。

つまり、仮に、就業規則を社会保険労務士
以外が作成することが法律上認められていると仮定しても、

その過程で(又は関連で)作成が必要になってくる
書類である労使協定の作成・提出は
法律上社会保険労務士の独占業務です。

言うまでもなく、労使協定は社員数が1名から必要です。

就業規則の作成をご依頼するということは
自社では作成できないと判断したから、
専門家に依頼したのだと思います。

それにもかかわらず、

「就業規則の作成の過程で(又は関連で)必要になった労使協定は自社で作成し、
かつ、労働基準監督署へ提出してください」というのでは
お客様へのサービスという観点からは
どうなのでしょうか?

(※なお、労使協定の中には労働基準監督署への提出が不要なものもあります。)

2.労働法の専門知識がないとクライアントにとって不利益が生じる場合もある

先ほどの労使協定の知識もそうですが、
以下では違う例(割増賃金)を挙げて、
具体例に説明します。

具体例 割増賃金の知識

休日労働をさせた場合であっても、

1.35で割増賃金を支払わないといけない日
1.25で割増賃金を支払えば良い日
1(時給単価)のみで良い日

この3種類があります。

更に、以下の違いの知識も現在は必要です。
月45時間(年360時間)を超えたときの割増率
月60時間を超えたときの割増率

この違いを意識して就業規則に適切に表現できていないといけません。
しかし、これには労働基準法の知識が必要になります。

もし、この知識がないとどうなるでしょうか?

時給単価のみの支給で良い休日労働で
1.35の支払いが必要になるケースが出てきます。

もちろん、法律を超える割増率での支給は大変素晴らしいことですが、
そうとは知らずに支給せざるを得なくなったのなら問題だと思うのですが、
いかがでしょうか?

就業規則に関する法律多岐にわたり頻繁に改正されます!

しかも、就業規則に関連した法律は多岐にわたり
頻繁に改正されます。

労働法の改正に常に注目している
労働法専門の弁護士の先生や社会保険労務士でないと
対応が難しいのではないでしょうか?

業際問題について私が思うこと(まとめ)

以上のようなこと考えると、
就業規則に関しては社会保険労務士・労働法に強い弁護士の先生が
作成するのがお客様へのサービスという点
では自然なのかなと私は思います。

「法律上、行うことができる」ということと
「本当に、お客様の役に立つ仕事ができるか」ということ
は全く別の話です。

もちろん、逆のことも言えます。

就業規則には民法が知識も必須ですが、
社会保険労務士試験には民法がありません。

以前は、よく指摘されたことです。

しかし、現在は、特定社会保険労務士になるための
試験である紛争解決手続代理業務試験を受ける際に、
かなりの時間を使って学びます。

特に、就業規則を作成する際に必要になる契約法の部分は重点的に学びます。

就業規則を中心に業務を行っている社会保険労務士は
私の知る限り多くの方がこの試験を受けて合格しています。

紛争解決手続代理業務を行うつもりはない方であってもです。

それは、お客様のために重要な知識だと
考えているからだと私は考えております。

私は以前に司法試験を長いこと受験していたことがあり
民法には詳しい方ですが、

それでも、更なる研鑽をするため
紛争解決手続代理業務試験を受験しました。

業際問題を考える際には、何がお客様のためになるか?
を考えることが1番重要なことだと私は思っております。

それを抜きに話を進めることは
あまりに自分本位な考え方だと思うのですが、
いかがでしょうか?

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今回の記事は、就業規則の独占業務について
お客様視点の観点から記事を書きました。

以下の記事は、「就業規則は生易しい業務ではない」
という観点から独占業務について書いています。
就業規則作成は社会保険労務士の独占業務か?

最後まで、お読みいただき、
ありがとうございました。