就業規則作成は社会保険労務士の独占業務か?

就業規則は社会保険労務士の独占業務か?
についてよく話題にのぼります。

色々な見解があるようです。

私は自分の見解を述べる立場にありませんが、
就業規則については専門家です。

実際、私は開業以来ほとんど就業規則と
その関連業務だけで事務所の運営を
してまいりました。

1年に10社新規で作成し続けている事務所
など極々少数なのが就業規則の業務ですが、

売上の9割以上を占める専門事務所として
かなり多くの就業規則を作成してきました。

就業規則の専門家と断言できます。

その上でお話させていただきますが、
決して楽な業務ではありません。

極めて専門性が高く責任も重い業務ですので、
簡単に企業が任せるような業務でもありません。

就業規則の性質を考えれば当然です。

就業規則の業務が大変な理由

就業規則は大変な業務です。

業務自体も大変ですし受注も大変ですが、
両者は密接に関連しています。

そこで、両者を分けることなく列挙していきます。

弁護士の先生が進出

弁護士の先生が進出してきていて、
真っ向から張り合える知識・経験が必要です。

企業の機密情報(極めて重要な事項)を扱う業務である

会社の賃金、労働時間といった労働条件、社員が守るべき規則
を決めるのが就業規則です。

会社の大切な機密情報を扱うことが多い業務です。

そんな会社にとっての機密情報を
何の実績もない人間に依頼しようとは思わないでしょう。

それがクリアできるまでは継続的に仕事が入ってくる
流れをつかむのは中々難しいです。

極めて高度な知識が必要

生半可な知識では仕事になりません。
会社には総務部があります。
何年、何十年と人事・総務で働いてきた人がいます。

基本的に自社で行おうとします。

それでも、自社で対応できないと思うからこそ
それなりのお金を払って依頼をしてくださいます。

もちろん、創業期には総務の社員が
いらっしゃらないことも多いです。

しかし、創業期にはもっと緊急かつ重要な課題があり、
就業規則の作成などには時間もお金もかけられないのが通常です。

料金をいただくためには(お客様のお役に立つためには)
やはり、高度な知識・経験が必要になります。

法律は多岐に渡り、しかも頻繁に改正される

就業規則は労働法の改正を踏まえて作成する必要がありますが、
労働に関する法律は多岐にわたります。

内容もとても複雑で、毎年のように改正されます。

そして、膨大な量の通達が出され続けます。

労働基準監督署は通達に基づいて行政指導を行いますので、
通達を抑えるのは必須ですが、

弁護士の先生ですら労働法は(通達等が)細かすぎると仰います。

毎年のように行われる法改正を追うのは労働法の専門家でないと現実的に困難です。

どれだけ多くの法律が就業規則に影響を与えているかは以下の記事の
「1. 近年、法改正が行われ、就業規則の見直しに影響した法律」のパートをご覧ください。

【社労士解説】法改正による就業規則見直しのポイント

知識を常にアップデートする必要がある

法律の改正に限ったことではなく、

情報収集を怠れば浦島太郎になります。

就業規則は社会の変化によって依頼理由が変わります。

数年前の知識では、浦島太郎状態ですので、
常に知識をブラッシュアップし続けなければなりません。

片手間でできるものではありません。

答えのない問題を扱う

就業規則は従業員の問題が絡むので答えがないことも多く、
判断に悩みます。

お客様企業から見解を求められたときに
膨大な業務量に裏付けられた経験がなければ信用を失います。

センシティブな問題を扱う

しかも、とてもセンシティブで神経を使います。
メンタルヘルスや解雇等の問題を想像してください。

しかも、それは自分が作成した1行で大きな影響を受けます。

常に葛藤の毎日です。

単なる紙の書類を作成しているわけではないのです。

ちょっとのミスが大変なことになります

そもそも、何十ページにもわたる書面で
細かいにもかからわらず
ちょっとのミスが致命的なことになりかねません。

あまり深く考えずに就業規則に記載した内容を
社員の方に指摘されて当事務所にご相談にいらっしゃる
企業はとても多いです。

就業規則は社員の皆様との契約書です。

深い意味もなく設けた就業規則のたった1文も
社員の皆さんの不利益に変えることは大変です。

なお、就業規則は契約書ですが、
その契約は自由に結べるわけではなく、
法律の範囲内でなければならないのです。

つまり、労働法に熟知していることが前提になります。

値下げ合戦

これほど大変な業務にもかかわらず
インターネット広告の世界では
値下げ合戦となってきています。

その結果、どうみても赤字としか思えない超低価格で
提供している事務所が出てきています。

就業規則を入り口に顧問契約や他の業務につなげたい
ということなのかもしれません。

しかし、それでも、多くの事務所が
1年もたたずにインターネット広告から
撤退していきます。

基本的に、会社に1つしかいらないサービスである

研修であればテーマを変えて複数の研修講師から
違ったテーマでサービスを受けるということはあります。

しかし、就業規則は会社に1つしかいりません。

つまり、会社の数だけしか必要はないのです。

「就業規則は事業場ごとに必要だし、
別規程も作成する必要もある。」

そう反論したい方もいるでしょう。

私も以前はそう思っておりました。

しかし、現実は違います。

「工場の就業規則は専門家Aに依頼し、
本社は専門家Bに依頼する」

そんな企業などありません。

結局、一人の専門家が作成します。

それ以前の問題として、
事業場ごとに別々に作成する企業も少数です。

工場と本社の働き方は違いますが、
多くの会社は一つの就業規則の中に、
本社と工場の扱いも一緒に規定しています。

それを各事業場ごとに備え付けている会社が多いです。

また、別規程の話も同じです。

「就業規則本則は専門家Aに依頼し、
旅費規程は専門家Bに依頼する」
なんて会社には出会ったことがありません。

会社の事情を複数の専門家に1から説明するのは非効率です。

もし、規程ごとに別々の専門家に
依頼する企業があるとするなら、

それは、最初に、就業規則を作成した専門家Aから
専門家Bに切り替えたということではないでしょうか?

その「会社に1つしかいらないサービス」
の受注を労働法のスペシャリストが争っているのです。

私が就業規則専門の社会保険労務士事務所を続ける理由

いかがだったでしょうか?

「就業規則は社労士の独占業務か?」

そのような議論が起きること自体、
「就業規則は誰が作成しても同じ」
という誤解に基づいているのではないかと思います。

今まで見てきた通り、誰が行うかによって結果は大きく異なります。

この業務を専門でやっていると
「対応できませんと他の専門家に断られました」
といった理由でのご依頼も多くあります。

専門家ですら「対応できない」と仕事を断らざるを得ない方が
いるほど難しい業務も多いのです。

特に、近年、企業が専門家に求めるニーズは多様化しています。
例えば、以下のような事例です。

当社労士事務所がオーダーメイドで作成を支援した実例紹介

隣の芝は青く見える気持ちはわかります。

私も新人の頃には「他の資格を取ろうかな」とか
「他の業務をやろうかな」と思ったことがあります。

もちろん、仕事を続けていく中で、
必要になった資格を取ることはあるでしょうが、

今は研修をのぞき、
そのようなことは全く思いません。

(それも、就業規則を使った研修や労使協定などの関連業務なので
就業規則の業務だと私は考えています。)

何の仕事をやっても大変です。

自分が使命に燃えることができて、
かつお客様のお役に立てることを
一生懸命にやるのが一番だと思います。

散々、大変な業務だとか、受注が大変だとかお話してきましたが、
就業規則の業務はとてもやりがいがあります。

お客様に「ありがとうございます」と言っていただけます。

これからも、この業務を頑張っていきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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