派遣労働者の同一労働同一賃金をわかりやすく解説します~派遣先企業にも影響を及ぼします

働き方改革改革関連法案が通り、
派遣法も改正されました。
ご存じの通り2020年4月1日施行となっています。

しかし、派遣労働者の同一労働同一賃金について、
当社は派遣会社ではないので関係ない!

そうお思いの会社も多いようですが、
そんなことは全くありません。

今回の改正は派遣元企業だけではなく
派遣先企業も関係があります。

もちろん、総務の方だけではなく、
システムエンジニア等も派遣されていれば
派遣労働者です。

そして、派遣先にお影響が及ぶ改正ですので、
多くの会社に関係してくる重要な法改正です。

しかし、今回の派遣法改正は、なかなか資料をお読みいただいても、
なかなかピンと来ない会社が多いようです。

本当に企業経営に重大な及ぼす改正にもかかわらず、
それが伝わらないのは内容が難解だということが原因だと思います。

そこで、どのような改正かをわかりやすく解説しました。
概要が一気にご理解いただけるのではないかと思います。

しかも、今回の改正は2020年4月1日施行です。

パートタイマー・有期雇用労働者については
中小企業について1年の適用猶予がありますが、
派遣労働者について適用猶予はありません。

まずは、同一労働同一賃金の理解が必要です

今回の改正は働き方改革で進行していた
『同一労働同一賃金』にもとづく法改正です。

同一労働同一賃金というと、
同じ労働をしていたら同じ賃金を支払わないといけな
という内容だとイメージしてしまうと思います。

しかし、それは違います。

例えば、同じ業務についていても
能力や成果が違えば待遇が違っても問題ありません。

では、同一労働同一賃金がどういう内容かを一言で言うと、
『派遣労働者と通常の労働者との間で、
不合理な待遇差を設けてはいけない』
という内容なのです。

注 ここでいう、通常の労働者とは
期間の定めのないフルタイムで働く労働者のことです。

つまり、国が言う同一労働同一賃金とは、
派遣労働者と通常の労働者との間の
不合理な待遇差の解消のことです。

このあたりを誤解されているために、
わかりずらくなっているようです。

派遣労働者と通常の労働者との間の
不合理な待遇差の解消が目的なので、

正社員と正社員との間の
話は関係がありません。

このあたりも混乱する原因となっています。

しかし、ここで、いくつか、疑問が生じませんか?
主に、2つ生じると思いますので、順を追って説明します。

不合理な待遇差とは具体的には?

まずは、1つ目の疑問として、
「不合理な待遇差ってなんだ?」

そのような疑問が生じると思います。

この部分が今回は法改正の中心ですが、
詳細に解説すると全体像が見えなくなるので
今回は、簡単にご説明します。

結論から言うと、不合理な待遇差の禁止の具体的な内容は
『均等待遇』と『均衡待遇』というものになります。

つまり、均等待遇と均衡待遇を守ることが
同一労働同一賃金を守るということなのです。

だから、この言葉が重要なのです。

まずは、均等待遇についてご説明します。

➀職務の内容(業務の内容・責任の程度)、
➁職務の内容・配置の変更の範囲
が(事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において)同じ場合は、
派遣労働者と通常の労働者を同一の取扱いをしないといけません。

これを均等待遇と言います。
なお、同じ取り扱いで能力等により
違いが生じることは許されます。

こちらは特に難しくはないですよね。

行っている職務の内容が同じで
負っている責任も同じ。
さらに、
転勤の有無も同じ
転勤の範囲も同じ
職務の内容や配置の変更の有無も同じ
そして、その範囲まで同じ

そんな派遣労働者と通常の労働者がいたら
同じ取り扱いをしないといけないのは
感覚としてもわかると思います。

次に、均衡待遇についてご説明します。

➀職務の内容、
➁職務の内容・配置の変更の範囲、
➂その他の事情のうち、
待遇の性質・待遇を行う目的に照らし適切なものを考慮して、
不合理な待遇差は禁止されます。

これを均衡待遇と言います。

逆に言うと、派遣労働者の待遇は、
➀➁の違いだけではなく➂その他の事情も加味して、
通常の労働者との違いに応じた範囲内で
待遇を決定することができます。

『均等待遇』の「同じ取扱い」はわかりやすいと思います。

特に、難しい話はないでしょう。

しかし、均衡待遇の方は抽象的すぎませんか?

『➀➁➂の違いに応じた待遇差は許される』
では会社として判断ができないのではないでしょうか?

そのために、許される例・許されない例
の具体例が挙げられている指針が出ています。

これが「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する
不合理な待遇の禁止等に関する指針(ガイドライン)」の位置づけです。

本当に簡単な内容ですが、
均等待遇と均衡待遇の説明は以上です。

2つ目の疑問に入りたいと思います。

派遣労働者は誰と比較して均等均衡を考えるのでしょうか?

これは疑問に思いませんか?

「パートタイマーや有期の契約社員と通常の労働者
(期間の定めのないフルタイム労働者)の間で
不合理な待遇差があってはいけない」というのは
イメージしやすいと思います。

自社のパートや契約社員の方と通常の労働者(正社員等)
を比べればよいからです。

では、派遣労働者は、誰と比べて不合理な待遇差
があってはいけないということになるのでしょうか?

派遣元の他の社員でしょうか?

原則は違います。

原則として、
派遣先の『通常の労働者(期間の定めのないフルタイムで働く労働者)』
と比べることになっています。

これが最近よく聞く派遣先均等均衡方式です。

派遣先の通常の労働者(期間の定めのないフルタイムで働く労働者)
と均等待遇・均衡待遇を守らないといけないので、
このような名称になっています。

派遣先の通常の労働者と比べることは
様々な問題がないでしょうか?

遣先均等均衡方式の問題点

派遣先が変わるごとに派遣労働者の待遇が変わってしまいます。
社員の待遇も不安定になります。

派遣先が大企業であればあるほど待遇が良いのが通常です。
大企業に派遣されることを希望する社員ばかりになってしまわないでしょうか?

しかし、大企業に派遣されることが社員の
キャリアにとって必ずしも良いわけではありません。

派遣社員の長期的安定的なキャリア構築ができません。
会社にとっても社員にとっても良いことでしょうか?

必ずしもそうとは言えないですよね。
特に、システムエンジニアなどの専門職の場合には。

また、『派遣先企業の通常の労働者と不合理な待遇差がないかを比べる』
ということは派遣先企業に自社(派遣先企業)の社員の賃金等の待遇の情報
を提供してもらう必要があります。

もちろん、個人が特定されないように提供されますが、
これは実務上かなり厳しいのではないでしょうか?

自社の待遇の情報ですからね。

派遣先企業が労使協定方式をとっていない企業
からの派遣社員の受け入れを嫌がるのではないか
という懸念も出ています。

そこで、もう一つの方式が認められています。

それが労使協定方式という方式です。

労使協定方式とは?

一定の要件を満たす待遇を労使協定で結び遵守されていれば、
派遣先の通常の労働者と比べて待遇(賃金、退職金、賞与、手当等)
を考えなくても良いというものです。

つまり、待遇は労使協定で定めるというパターンです。

注 それでも派遣先の通常の労働者と比較しなければならないものもあります。
したがって、全く情報を提供してもらわなくてよいというわけではありません。
・派遣先企業が派遣先労働者に対して利用の機会を与えている給食施設・休憩室・ 更衣室
・派遣労働者が派遣先の労働者と同種の業務に従事する場合、その業務の遂行に必要な能力を付与するために実施する教育訓練

労使協定方式の要件

もちろん、労使協定方式には条件(要件)があります。

1.法律で求められている労使協定の締結が必要です。

つまり、従業員の過半数を代表する労働者との協定が必要になります。

この労使協定を締結する労働者の代表者が(会社の指名等となっていて)
労働者の過半数を代表していなかった場合、
原則の派遣先均等均衡方式が適用になってしまいます。

システムエンジニアは派遣先企業で働いているはずです。

派遣先で働いているか方々にも投票を呼び掛けて
過半数の代表者を選ぶ必要があります。
大変な作業です。

2.一定水準の賃金でなければならない!

賃金の水準が職業安定局長通知で示される
『派遣労働者と同種の業務に従事する一般的労働者の平均的な賃金』
以上であることが必要です。昇給規程等の賃金の改善の仕組みが必要です
(そして、賃金テーブルのようなものを作成しないといけません)。

3.派遣元管理台帳への記載、
及び毎年の事業報告書に労使協定の添付も必要!

同一労働同一賃金に関する派遣法改正
は以上です。

派遣元だけではなく派遣先企業にとっても
大きな影響のある改正だということは
ご理解いただけたのではないかと思います。

今回は、あくまでも、わかりやすく表現したので、
一部表現として正確ではない部分があります。

法律用語を羅列すれば正確ではありますが、
伝わりにくくなります。
わかりやすさを優先したため、
正確ではない部分があるという点はご理解下さい。

派遣元企業だけではなく派遣先企業にとっても
重要な改正だということはご理解いただけたでしょうか?

最後までお読みいただきありがとうございました。

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