(実務)時間外労働の上限規制に対応した労働時間管理
時間外労働の上限規制について法改正が行われています。
法改正の内容については以下の記事をご覧ください。
36協定を提出したら次の段階として労働時間管理が必要になります。
実は、日々の労働時間管理については
厚生労働省がリーフレットをだしてくれています。
『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』
というものです。
上限規制に適応した36協定を締結・届出を行った場合、次の段階として、36協定に定めた内容を遵守するよう、日々の労働時間を管理する必要があります。(時間外労働の上限規制 わかりやすい解説)
そのリーフレットの15ページから18ページまでに
上限規制の対応した日々の労働時間管理の方法を解説してくれています。
しかし、リーフレットを読むとかなり複雑な労働時間の
管理方法が必要になることがわかります。
そこで、今回の記事では時間外労働の上限規制
に対応した日々の労働時間管理を簡単にする方法について
考えてみたいと思います。
時間外労働の上限規制 法改正の内容まとめ
労働時間の管理方法を考える前に
まずは、法改正の内容をみてみましょう。
詳しくは以の記事をお読みいただきたいのですが、
ここでは、概略をまとめます。
➀労働時間の上限規制の法改正概要
まずは、改正後の具体的な上限時間数をみる前に、法改正の概要をまとめます。
・特別条項をつけても超えられない時間外労働の上限が設けられました(月、及び年)
・特別条項を使って月45時間超えの労働をさせることができる要件が以下のようになりました
「当該事情場における通常予見することができない業務量の大幅な増加等に伴い
臨時的に限度時間を超えて労働をさせる必要がある場合(月)に限る」(労働基準法36条5項)
・休日労働を含んだ上限も設けられました
・今まで法律で規定されていなかったが、
法律に格上げして罰則をかすことになりました。
(労働基準法119条)
細かい通達の話をしだすとキリがありませんが、大まかな改正内容は以上です。
➁改正後の上限時間数
では、具体的に、どのように変わったか数字をご確認します。
1)原則の限度時間 (労働基準法36条4項)
時間外労働は月45時間、年360時間 となっています。
今までと同じですよね。
2)限度時間の特例
・休日労働を含み月100時間未満でないといけない(労働基準法36条5項6項2号)
・休日労働を含み2ヶ月ないし6か月平均80時間以内でないといけない(労働基準法36条5項6項3号) 注
・時間外労働は1年で720時間以内(休日労働を含まない) (労働基準法36条5項)
・原則の時間外労働の月45時間を超えられるのは年6回まで(従来通りです)(労働基準法36条5項)
注 少しわかりにくいと思いますので解説します。
これは、単月での法律上の上限は100時間未満ですが、
「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」
「5か月平均」「6か月平均」すべてで平均して、
80時間以内になっていないといけないということです。
事実上の労働時間(時間外+休日労働)の年間の上限
時間外労働の上限は720時間ですが、
時間外労働に休日労働を加えた年の上限
は960時間となります。
(2~6カ月を平均して)月80時間が上限ですので
80時間×12か月=960時間となるからです。
時間外労働+法定休日労働で年960時間という枠があり
その中に時間外労働年720時間という枠がある!
そのようにお考えください。
労働時間管理を複雑にしてしまう原因(要因)
法改正の概要は以上ですが、
まずは、管理が複雑になってしまう原因
を考えてみたいと思います。
➀月80時間(時間外+休日労働)を超えるから(80時間を超えると極端に複雑になります)
時間外労働と休日労働を足して80時間を超えると
以下の二つの観点から管理が大変になります。
1)2~6カ月の平均を計算しないといけなくなる
これは、大変です。
毎月、5パターンを計算しないといけないわけです。
2か月平均で80時間以内におさまっているか?
3か月平均で80時間以内におさまっているか?
4か月平均で80時間以内にまっているか?
5か月平均で80時間以内におさまっているか?
6か月平均で80時間以内におさまっているか?
それを毎月です。
2)『当月の』労働時間の上限が月によって変わってしまう。
なぜ、月の上限が変わってしまうかというと、
当月(今月)に働かせることができる時間は過去の平均で出るからです。
しかも、人によって変わります。
1)よりもこちらの方が大変だと私は思っています。
Aさんの今月の上限は78時間
Bさんの今月の上限は68時間
Cさんの今月の上限は80時間
その月によって変わる上限で働かないといけないです。
これは難しいですよね。
以上の2つが日々の労務管理を複雑にしてしまいます。
➁上限時間に複数の組合せがあるから(全てでその範囲内でないといけないから)
・月の時間外労働の上限(45時間超えは6回のみ。つまり、年6回は45時間以内)
・月の時間外・休日労働を合算した上限
・年の時間外労働の上限
ここでは省略しますが、図にするとわかりやすいですよ。
➂社員がこれらの上限を把握しながら働かないといけないから
社員の方も、上限を意識しつつ日々働かないといけません。
今月は68時間となったら必ずその範囲で納めないといけません。
会社には労働時間を把握する義務があります。
しかし、社員が把握していないければ意味がありません。
仕事が終わっていないのに、
「あなたは、今月は時間外も休日も働けません」
と会社からいきなり言われたらどうなるでしょうか?
通知システムをはじめとした何らかの仕組みが必要になります。
労働時間管理を簡単にする解決策
そこで、労働時間管理を簡単にする基本的な方法をいくつか挙げたいと思います。
➀月80時間(時間外+休日労働)を超えないようにする
月80時間を超えると極めて高度な管理が必要になります。
管理を容易にしたいのであれば80時間以内に抑える方が良いでしょう。
しかし、仮に管理が可能だとしても、月80時間(時間外+休日労働)を超えるのは、
大きな問題(デメリット)がもう一つあります。
「会社には80時間以内に抑えるメリットがある」と言い換えることもできます。
もし、月80時間を超える月が過去2~5カ月にあると、
今月の労働時間の上限はどうなるでしょうか?
過去2~5カ月に働いた労働時間数で決まってしまいます。
今月働かせることができる労働時間の上限
は過去の平均で出るからです。
これは困らないでしょうか?
例えば、今月、70時間働かせたいと思っても、
それができない月も出てきます。
毎月確実に働かせることができる上限時間数を確保するという観点からも、
月の労働時間数の上限を80時間(以内)としておくことは、
会社にメリットのあることだと思われます。
■時間外・休日労働を月80時間以内に抑えるためには?
当事務所も様々な社内制度の整備を行っており
クライアント企業にご提案しています。
成果をあげている取り組みも多いです。
どうやっても100時間超えは許されなくなりました。
80時間以内とするには20時間程度です。
しかも、年の上限も決まっています。
様々な取り組みを行うことで80時間以内に抑えてはどうでしょうか?
②法定休日の曜日の特定・ルールの明確化
労働時間管理を容易にするためにも、
今回の改正で法定休日の曜日の特定は必須となったと言えます。
時間外労働の45時間超えが可能なのは1年で6回(半年)です。
残りの半年は、時間外労働は45時間はまでですので、
それ以上働いてもらいたいのであれば、
法定休日に働いてもらうしかありません。
しかし、法定休日の曜日を特定しておかないと、
休日の労働をさせた場合にその日の労働が
法定休日労働か所定休日労働かの判別ができません。
これでは、例えば、時間外労働が45時間を超えたが
特別条項を使わずに80時間以内におさえるために、
法定休日労働をしてもらおうという労働時間管理ができません。
したがって、法定休日労働の特定・ルールの明確化は必要です。
➂注意しなければならない上限時間を減らすことができる管理方法にする
社員の方が月の労働時間の上限を意識して働かなくても、
会社の時間外・休日労働のルールにしたがっていれば、
結果として法律の範囲内に収まっている管理方法にするということです。
各企業において様々な取り組みをしていることと思います。
例えば、特別条項を使えない月のルールで考えてみます
ルール1 『時間外労働の上限を1日2時間とする』
そのようなルールを設ければ、
『土日祝日・年末年始』が休日の会社なら
毎日2時間時間外労働を行ったとしても
月45時間を超えることはありません。
月の労働日が22日を超えることはないからです。
1日2時間を上限としている
会社が多いのはそのためです。
もし、今まで意識したことがなかったなら
1日2時間を意識してみて下さい。
もちろん、時間外労働が年360時間を
超えてしまうことはあると思われますので、
36協定に特別条項が不要になるわけではありませんよ。
ルール2 特別条項を使えない月は、法定休日に働いてもらう
法定休日労働は月4日、1日8時間とすれば、
最大でも月32時間です。
ルール1と2を組み合わせれば、
必ず80時間以内に収まります。
月の上限に自然とおさまります。
もちろん、上記のルール2つを
単純に組み合わせることはできません。
不都合な点がいくつも生じます。
その問題点は自社で解決してください。
会社の実情に合った管理方法の導入
労働時間の問題は会社によって事情が全く異なります。
残業がほとんどない会社と長時間労働が問題となっている会社
では事情が全く違います。
また、重視したいことによっても変わってきます。
➀労働時間を削減していく努力が必要なのはわかっているが、
(人手不足で)できるだけ時間外労働をしてもらう必要がある!
➁とにかく管理を容易にするのが最優先事項
➂社員が辞めていっては困る。できるだけ社員満足度を上げる制度にしたい!
➃割増賃金が会社経営を逼迫しているので人件費の高騰は困る
何に重点を置くかで全くとるべき対応策は変わってきます。
会社の実情飲合った管理方法を導入することが必要です。
実務に精通した社会保険労務士が時間外労働の上限規制を解説しました
最後まで、お読みいただきありがとうございました
関連記事
時間外労働の上限規制(36協定) 法改正内容 まとめ
時間外労働の上限規制の盲点~45時間超えの月が10か月可能?
36協定で残業削減、36協定と雇用契約書の違い?
労使協定とは何かわかりやすく説明します~就業規則との違いをご説明できますか?
2024年追記
建設業では今まで時間外労働の上限規制が猶予されておりましたが、
2024年4月から適用になりました。
当事務所のお客様への対応事例は以下の記事をご覧ください。
建設業の就業規則:社労士が解説する時間外労働の上限規制対応〜2024年度版