フレックスタイム制の弊害と対策(メリットとデメリット)

フレックスタイム制は「導入したい」
というご相談をよく受けますが、
少し待っていただきたい制度です。

このフレックスタイム制は運用が面倒なうえ
会社としてもデメリット(弊害)が多い制度です。

導入するのであればデメリットについても
認識したうえで対策を立ててからにした方が良い
と思います。

今回の記事は、フレックスタイム制の弊害(デメリット)
そして、可能な限り対策もあげさせていただきます。

フレックスタイム制のメリット

デメリットについて考える前にメリットについて
も考えてみたいと思います。

メリットはもちろんあります。

フレックスタイム制を導入したうえで
辞めてしまう会社も最初はメリットをみて導入しますので、
まずは、社員のメリット、会社のメリットをまとめます。

フレックスタイム制の社員のメリット

社員にとって魅力的な制度である
ことは考えるまでもないでしょう。

・好きな時間に来て好きな時間に帰れる
・朝の弱い人など人は様々、通勤ラッシュを避けられる
・従業員に始業・終業の時間をある程度まかせることにより、効果的に仕事を進めることができる。
・自分で始業終業時刻を決められるので突発的に出来事があっても安心(介護など)
・子供の送り迎えに合わせて始業終業時刻を決める(育児)

人間は思い通りの力を発揮する時間帯が違ったりします。

クリエイティブな業務であれば
従業員に始業・終業の時間をある程度まかせることにより、
効果的に仕事を進めることができるのは事実です。

では、会社のメリットは何でしょうか?

フレックスタイム制の会社のメリット

フレックスタイム制は、精算期間
(多くの会社では1か月になるでしょう。)
で時間外労働を考えていきますので、

1日、1週間の時間外労働という問題は生じません。

確かに、これは、残業削減という効果が期待できます。

具体的に説明します。

時間外割増賃金は、1日8時間又は週40時間を超えて働いた場合、必要になります。

しかし、毎日、9時~18時(8時間)という働き方が合理的でしょうか?

毎日必ずしも8時間働かなくても良い日はないですか?

逆に、10時間働いてもらった方が良い日はないですか?

 例えば、以下のような感じです。

4h8h10h6h8h

しかし、日本の法律では、このような形で働いた場合、
8時間を超えた日(水曜日)には
割増賃金の支払いが必要になります。

変形労働時間制を採用するにしても
予めシフト等で労働日と始業・終業の時刻を
特定しておく必要があります。

しかし、フレックスタイム制は始業・終業の時刻を
労働者にまかせる制度ですので、

事前にシフト等で各日の始業・終業の時刻を
特定しておく必要がありません。

下記の労働基準法32条の2(フレックスタイム制)をお読みください。
アンダーラインの部分がそれに該当します。

第32条の3(フレックスタイム制)
使用者は、就業規則その他これに準ずるものにより、その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定にゆだねることとした労働者については、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、その協定で第2号の清算期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が第32条第1項の労働時間を超えない範囲内において、同条の規定にかかわらず、一週間において同項の労働時間又は一日において同条第2項の労働時間を超えて、労働させることができる。
1.この条の規定による労働時間により労働させることができることとされる労働者の範囲
2.清算期間(その期間を平均し一週間当たりの労働時間が労働基準法第32条第1項の労働時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、一箇月以内の期間に限るものとする。次号において同じ。)
3.清算期間における総労働時間
4.その他厚生労働省令で定める事項

今の時代、「毎日、8時間決められた時間に働く必要がない!」

そんな会社(業務)も多くなってきました。

そのような会社(業務)にとって
フレックスタイム制は残業削減の効果がありますので、
会社にとっても良い制度です。

フレックスタイム制の導入を検討される際には、
特にスタートアップ企業において、
他の柔軟な働き方との組み合わせが有効です。

スタートアップ企業の就業規則に関する具体的な事例や、
自由で柔軟な働き方を導入する際の注意点については、
スタートアップ企業の就業規則の特徴~自由な・柔軟な働き方を認めるベンチャー企業』をご参照ください。

フレックスタイム制の弊害(デメリット)と、その対策

確かに、労使双方にとって魅力的な制度です。
それは、間違いありません。

しかし、従業員に始業・終業の時刻を決める自由を
認めるということには弊害もあります。

フレックスタイム制は、デメリットが必ず生じます。

これについては、デメリットが生じるのを前提にして、
どのようにそのデメリットを解消できるかの対策を
講じることが重要なのではないかと思います。

そこで、デメリット(と思われる)項目を列挙し、
その対策を挙げていきます。

(1)月単位で労働時間管理をすることは想像以上に難しい

もちろん、会社にとって管理は大変です。

しかし、社員の皆様にとっても自分の労働時間
を把握し管理することは大変です。

そもそも、1か月の契約時間ぴったりに働く
というのは不可能です。

通常は、何十時間か契約時間に不足したり
超過したりします。

そのようなことが起きないようにするためには、
ほぼ毎日同じ時間に出社してくるしかありません。

しかし、それは、フレックスタイム制とは言えません。

そもそも、フレックスタイム制を導入する意味
もなくなります。

時差出勤等でかまわないはずです。

1か月に働いてもらう契約時間を超過した場合

この場合には、残業代の支払いが必要ですが、
それは、通常の労働時間で働く社員であっても生じる問題です。

フレックスタイム制だからこそ生じる問題とは言えません。

1か月に働いてもらう契約時間に不足してしまった場合

しかし、1か月に働いてもらう契約時間に不足する社員
が出るのはフレックスタイム制独自の問題です。

この場合は、不足した時間分の賃金を
控除したい会社が多いでしょうから、
賃金控除の1文を労使協定に入れます。

しかし、賃金を控除されたくないために、
月末に労働時間が集中してしまう社員の方も出てきます。

■1か月に働いてもらう契約時間に不足してしまった場合の対策

労働時間管理の研修を行う等も大切だとは思いますが、
同時に、労働時間管理ができない社員の方に関しては、
(フレックスタイム制をいったん適用しても)、
フレックスタイム制から外すことができるようにしておく
ことで対処することも必要ではないかと思います。

フレックスタイム制は導入に労使協定を結ぶ必要があります。

そこで、例えば、以下のような1文を労使協定に
入れておくことで対策を講じることが考えられます

対策1:いったんフレックスタイム制の対象にしても、
労働時間が●時間以上、不足した社員については
フレックスタイム制の対象から外すという協定にしておく。

対策2:月末に極端な時間勤務した社員も
フレックスタイム制から外すという協定にしておく

後者については、3か月フレックスを
導入する際に多く入れる1文です。

1か月単位のフレックスタイム制では
一般的ではないかもしれませんが、
必要であればご検討してはいかがでしょうか?

(2)一部の社員に導入すると不満が出る

フレックスタイム制は導入には適してしない業務もあるため、
全員にフレックスタイム制を導入することは困難です。

当然、一部の労働者(部署)に対して
フレックスタイム制を導入することになると思われます。

しかし、1部の社員だけにフレックスタイム制を導入すると
「彼ら(彼女ら)だけ、ずるい!」
「いいなぁ、自分もフレックスタイム制で働きたい」
とそのフレックスタイム制が適用されない他の従業員から不満が出てきます。

確かに、フレックスタイム制は社員の皆様にとって魅力的な制度です。
定時で働いている社員からしてみれば、
羨ましいと感じる社員が出てくるのは当然です。

また、フレックスタイム制を導入した社員をどうしても
特別扱いをしていると受け取られがちです。

フレックスタイム制の対象者の選定によって社内不和の原因になりかねません。

一部の社員に導入すると不満が出ないための対策

これに対しては、説明の仕方を変えると
大分違ってきます。

「好きな時間に来て好きな時間に帰って良い制度(自由度が高い)」
と受け取られるために、

「ずるい」「うらやましい」となるのだと思われます。

しかし、フレックスタイム制を導入する会社の目的は、
「働き方改革の元、無駄な残業を自主的に減らしてもらうための制度」
と説明をされれば、

必ずしも「フレックスタイム制はずるい」とか「いいなぁ」
と思う社員は減ってくるのではではないでしょうか?

多くの企業が残業削減という目的の元、
導入するはずです。

それは、社員にとって場合によっては
残業代が減ることを意味します。

それは、社員の皆さんにとっても、
人によってはデメリットです。

フレックスタイム制が『適用される社員』
には制度のメリット・デメリットを説明しても、

意外とフレックスタイム制が『適用されない社員』には
丁寧な説明を欠いているようです。

フレックスタイム制が導入される社員に対してだけではなく、
導入されない社員に対しても、

制度導入の目的とともに、メリット・デメリッ
ト両方をご説明することが大切だと思われます。

(3)みんな夜に出てきて朝出社してこなくなるのでは?逆に、深夜に会社で仕事をする社員が出てこないか?

もちろん、そのような社員の方は出てきます。

コアタイムの始まりである11時から出社してくる
社員ばかりになったというお話はよく伺います。

しかし、朝に出社して欲しいのであれば、
コアタイムの設定の仕方で解消できます。

出社の時間が遅くなるという場合の対策

・朝に出社して欲しいのであれば、コアタイムを8時~14時に設定する等
・深夜に出てきてもらっては困る場合には、朝5時~22時の間のフレックスタイムとして、フレックスタイム時間を幅広く設定しておき、深夜労働は禁止にする等

なぜか、多くの会社が深い意味もなくコアアイムを
10時~15時と設定しています。

コアタイムとは、会社が必ず出社して欲しい時刻
に設定するものです。

会社の事情に合ったコアタイムを設定すれば、
多くの問題は解決できると思われます。

(4)早出・居残り残業命令の問題

フレックスタイム制は、始業・終業の時刻を
労働者にまかせる制度ですので、
早出・居残り残業の命令をできるか?
という問題が出てきます。

これについては見解が分かれます。

➀労働者に始業・終業時刻の決定権をゆだねる以上、
そのような命令はできないという見解がある一方、

➁そこまでは否定されていないという見解もあります
(著名な学者・弁護士の先生の中にもいます)。

➁の立場に立つなら、きちんと早出・居残り残業命令を
労使協定に定めておく必要があるでしょう。

➀の立場に立つ場合、残業を命じたいのであれば、
『フレックスタイム制そのものの適用を解除し、
通常勤務に服することを命じたうえで、
早出や居残りを命じるという方法』をとることになりますが、
そのような手法自体が現実的ではないという問題点があります。

そもそも、法的な問題を抜きにしても、

「フレックスタイム制なのに、残業を命じられるのはおかしくないか?」
と違和感を持つ社員の方が多く出てきます。

(5)全社員が同じ時間に働くというメリットは思いの外大きい

社員各々が始業終業の時刻を定められるということは、
今すぐ本人と連絡を取りたいという状況であっても
連絡を取れないことを意味します。

「大事な決定を11時までにしないといけないのに、
フレックスタイム制の社員が出社してくるまで決定できない」

「クライアントから急な対応を頼まれたが、
フレックスタイム制の対象者であるエンジニアが
3時に帰ってしまったので、
次の日までクライアント対応できない。
明日も何時に出社するかもわからない」

「急遽、フレックスタイム制の対象者である3人
がそろわないと決められない重要な問題が起きたが、
いつ3人がそろうかわからない」

そのようなことが起きえます。

多くの業務は、チームワークが必要です。

一人で完結する業務は非常に少ないです。

例えば、エンジニアなど他の部署と連携を取らなくても
できると思われがちな業務(部署)であっても、
他者(他の部署)である営業と同行しなければならない
状況は生じえます。

そのようなときに、毎回、
「本日は、技術者が帰ってしまいまして・・」
と言っていたのでは困ります。

必要なときに会社に居てもらうための対策

コアタイムの設定を会社にとって
絶対に必要な時間に設定しておくことが必要ですが、
それでも限界があるのは否めません。

(6)コミュニケーション不足の原因になりかねない

同じ時間に出社してくる場合に比べて(今までに比べて)、
挨拶が減ったと仰る会社は多いです。

出社してくる時間が違う以上、
出社してきたときに他の社員は仕事をしています。

仕事をしている社員にとって、声をかけられること(挨拶)は迷惑
と感じるときがあります。

仕事を中断しないといけないからです。

そのような理由から、挨拶するのを
躊躇ってしまい自然と挨拶をしなくなった
ということのようです。

出社の際の挨拶が減ったことが原因で、
どんどんコミュニケーションが減っていった
という声もよくききます。

最初は、他の社員を思いやって
挨拶をしなくなったのであっても、
それがきっかけとなり、最終的には
コミュニケーションが不足する
ようになっていったようです。

似たような問題として以下のご意見もいただきます

フレックスタイム制を導入した結果、自分の業務にのみ目を向けるようになり、協力して仕事をしていく姿勢が減った

そのように感じている会社も多いようです。

特定の部署にのみ導入したら、セクショナリズムに陥った

いずれもコミュニケーションに関する問題ですが、

非常によくいただくご意見です。

確かに、部署間で働き方が違えば、そのようなことが起きえます。

フレックスタイム制を導入した結果、
「コミュニケーション不足になり風通しが悪くなった」
と感じている会社は多いようです。

逆に、フレックスタイム制を廃止したら
会社の風通しがよくなり雰囲気が良くなった
というご意見は良く頂きます。
フレックスタイム制の大きなデメリットの一つだと思われます。

(7)いったん導入すると、廃止には社員の皆様の強い反対を受ける

フレックスタイム制は社員の方にメリットが大きく、
廃止して欲しくない制度のようです。

いったん導入すると廃止には社員の皆様の
強い反対を受けることがあります。

また、新入社員を採用する際にフレックスタイム制
を会社のウリにしていた場合などは、
「フレックスタイム制だから入社したのに・・」
という社員の方が出てきます。

そのようなことを言われた際に、
どのように対応するかは予め検討しておく
必要があるのではないでしょうか?

フレックスタイム制を導入した後に廃止できるようにしておく対策

導入する際に、「〇〇という不都合が生じたら廃止することもありうる」と事前に説明しておく等

もちろん、労使協定に一文を入れておく必要があります!

制度の導入は目的から考えましょう!(まとめ)

今回はフレックスタイム制のデメリットについて考えました。

フレックスタイム制は導入したとしてもうまくいかず
元に戻す会社が本当に多い制度です。

フレックスタイム制を導入したい
と思ったからには目的があるはずです。

その目的が達成できるのであれば
フレックスタイム制でなくてもかまわない
のではないのではないでしょうか?

おそらく、会社が達成したい目的を考えたとき、
真っ先に思い浮かんだのがフレックスタイム制
だけだったということではないでしょうか?

詳しくお話をうかがえば、
フレックスタイム制を採用しなくても
他の制度で会社の目的は達成できることはとても多いです。

しかも、フレックスタイム制で生じる弊害なしの制度によってです。

フレックスタイム制を導入するにはどうしたら良いか?
という発想ではなく、

自社の働き方に最も合った制度は何か?
という思考が大切です。

実際、フレックスタイム制を導入したいと
当事務所にお越しになった相談者様の多くが
当事務所のコンサルティングをお受けになり
他の制度を導入されました。

当初の目的は達成できています。

なお、言うまでもないことですが、
労働時間に関することは就業規則に
必ず記載するようにしてください。

法律上、求められている条件・要件を
守れないのであれば、

フレックスタイム制の導入は
絶対にやめて下さい。

労働時間の問題は、
イコール残業代の問題です。

未払い残業代の問題が生じることになりますが、
その責任は会社(制度の導入者)が負うことになるからです。

フレックスタイム制が無効とされると、
例えば、1日8時間を超えた時間は
全て時間外労働として扱われます。

仮に、1日6時間の日が続いていて週40時間以内に収まっていても、
1日8時間を超えている日があれば2割5分増で賃金を
支払わなければいけなくなります。

本記事をお読みいただいても解決しきれない疑問や、
自社に最適な制度を見つけられないとお悩みの方は、
ぜひ当事務所までご連絡ください。

当事務所の専門的な知識と経験を活かし、
御社に最適な制度を見つけご提案します。

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最後まで、お読みいただきありがとうございました。

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