時間外労働の上限規制を簡単に開設しました。〜複雑すぎてわかりにくい

2019年4月1日から時間外労働時間に上限が設けられました。
中小企業には1年の適用猶予の期間がありましたが、
現在では、中小企業でも適用になっていまず。

働き方改革の一環です。

意外とイメージで語られておりますが、

働き方改革とは何かついて厚生労働省は以下のよう述べていす。

「 働き方改革」は、働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革です。 日本が直面する「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」、 「働く方々のニーズの多様化」などの課題に対応するためには、 投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡 大や意欲・能力を存分に発揮できる環境をつくることが必要です。働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現することで、成長と分配の好循環を構築し、働く人 一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指 します。

一言でいうと、アンダーラインの太字になります。

そして、このような働き方改革関連法案の流れの中で、時間外労働の上限規制の法改正が行われました。法改正の趣旨について厚生労働省は以下のように言っています。

長時間労働は、健康の確保を困難にするとともに、仕事と家庭生活の両立を困難にし、少子化の原因、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参加を阻む原因となっています。長時間労働を是正することによって、ワーク・ライフ・バランスが改善し、女性や高齢者も仕事に就きやすくなり労働参加率の 向上に結びつきます。このため、今般の働き方改革の一環として、労働基準法が改正され、時間外労働の上限が法律に規定されました。

なお、労働政策審議会建議『時間外労働の上限規制等について』(2017.6.5)では『過労死等ゼロを実現』との考え方を示しています。この過労死ゼロが今回の法改正の上限時間とかかわってきます。

この時間外労働の上限規制についての改正内容は
それほど難しいものではありません。

法改正内容はシンプルです。

そこで、今回の記事では時間外労働の上限規制
の法改正内容を確認したいと思います。

時間外労働の上限規制の法改正の内容

ご存じの通り、日本は、時間外労働・休日労働は禁止の国です。

時間外労働・休日労働を従業員に行わせるには
従業員の過半数を代表する従業員と時間外・休日労働協定(36協定)
を締結し労働基準監督署への提出することが必要です。

しかし、36協定(時間外・休日労働協定)を締結・提出すれば、
何時間でも時間外労働をさせられるというわけではありません。

上限があります。

その上限について、法改正が行われたのが
時間外労働の上限規制ということになります。

1.時間ぎ労働の上限規制 改正前まとめ

今回、時間外労働の上限規制が法改正されましたが、

それ以前は、どうなっていたのでしょうか?
まずは、確認します。

時間外労働の上限

1)原則の限度時間

時間外労働の上限は、月45時間、年360時間
(1年単位の変形労働時間制は除く。)
1日の限度時間はありませんでした

2)限度時間の特例

➀特別条項というものをつけて協定(合意)した場合
年6回(つまり半年)は45時間を超えること可能
➁特別条項を発動させる主な要件
「限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない特別の事情がある場合」
(臨時的なものに限る)とされていました。

でも、45時間を超えることが
年6回(半年)は可能なのはわかったけど
何時間まで働かせて良いの?

そんな疑問が生じますよね。

しかし、この部分には法で決まっていませんでした。

そのため、過重労働による健康障害が全国で発生して
社会問題になりました。

法定休日(1日の休日)

・回数について制限は無し
・時間外労働とは別に休日労働を行わせることは可能
(つまり、上記の時間数にカウントしないで良い)

これは、どういうことかというと・・

例えば、以下のように36協定で協定したとします。
・特別条項に時間外労働の上限を80時間として協定
・法定休日労働を月4日(1日8時間)と協定

この場合、合計で月112時間働かせることが可能でした。

なお、ここでいう休日労働とは週に1日の休日の事です。
土日が休日だった場合、残りの1日は所定休日となります。

その所定休日は、時間外労働と同じ扱いを受けます
(割増賃金は1.25でかまいませんが、時間外労働としてカウントする必要があります。)

逆に言うと、法定休日であれば
1.35の割増賃金を支払う必要がありますが、
時間外労働としてはカウントさせません。

詳しくは以下の記事をお読みください。
法定休日とは何かご存知ですか?~就業規則への定め方で割増賃金が違ってきます

時間外労働の上限は法律事項ではありませんでした

時間外労働の上限は限度基準告示によって定められ、
罰則による強制力はありませんでした。

2.労働時間の上限規制の法改正の内容

改正後の労働基準法36条を確認してみましょう。

以下の通りとなっています。

ざっとご覧になってみてください。

(時間外及び休日の労働)
第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
2 前項の協定においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 この条の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させることができることとされる労働者の範囲
二 対象期間(この条の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる期間をいい、一年間に限るものとする。第四号及び第六項第三号において同じ。)
三 労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる場合
四 対象期間における一日、一箇月及び一年のそれぞれの期間について労働時間を延長して労働させることができる時間又は労働させることができる休日の日数
五 労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするために必要な事項として厚生労働省令で定める事項
3 前項第四号の労働時間を延長して労働させることができる時間は、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において、限度時間を超えない時間に限る
4 前項の限度時間は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間及び一年について三百二十時間)とする。
5 第一項の協定においては、第二項各号に掲げるもののほか、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第三項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間(第二項第四号に関して協定した時間を含め百時間未満の範囲内に限る。)並びに一年について労働時間を延長して労働させることができる時間(同号に関して協定した時間を含め七百二十時間を超えない範囲内に限る。)を定めることができる。この場合において、第一項の協定に、併せて第二項第二号の対象期間において労働時間を延長して労働させる時間が一箇月について四十五時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあっては、一箇月について四十二時間)を超えることができる月数(一年について六箇月以内に限る。)を定めなければならない。
6 使用者は、第一項の協定で定めるところによって労働時間を延長して労働させ、又は休日において労働させる場合であっても、次の各号に掲げる時間について、当該各号に定める要件を満たすものとしなければならない。
一 坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務について、一日について労働時間を延長して労働させた時間 二時間を超えないこと。
一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間 百時間未満であること
対象期間の初日から一箇月ごとに区分した各期間に当該各期間の直前の一箇月、二箇月、三箇月、四箇月及び五箇月の期間を加えたそれぞれの期間における労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間の一箇月当たりの平均時間 八十時間を超えないこと
7 厚生労働大臣は、労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするため、第一項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項、当該労働時間の延長に係る割増賃金の率その他の必要な事項について、労働者の健康、福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して指針を定めることができる。
8 第一項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者は、当該協定で労働時間の延長及び休日の労働を定めるに当たり、当該協定の内容が前項の指針に適合したものとなるようにしなければならない。
9 行政官庁は、第七項の指針に関し、第一項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。
10 前項の助言及び指導を行うに当たつては、労働者の健康が確保されるよう特に配慮しなければならない。
11 第三項から第五項まで及び第六項(第二号及び第三号に係る部分に限る。)の規定は、新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務については適用しない。

実際の条文は初めてご覧になった方も多いと思います。

ビックリするぐらいの長文ですね。。

それでは、法改正の内容を見ていきましょう。

労働時間の上限規制の法改正概要

まずは、改正後の具体的な上限時間数をみる前に、法改正の概要をまとめます。

・特別条項をつけても超えられない時間外労働の上限が設けられました(月、及び年)
・特別条項を使って月45時間超えの労働をさせることができる要件が以下のようになりました

「当該事情場における通常予見することができない業務量の大幅な増加等に伴い
臨時的に限度時間を超えて労働をさせる必要がある場合(月)に限る」(労働基準法36条5項)

休日労働を含んだ上限も設けられました
・今まで法律で規定されていなかったが、
法律に格上げして罰則をかすことになりました。
(労働基準法119条)

細かい通達の話をし始めるとキリがありませんが、大まかな改正内容は以上です。

改正後の上限時間数

では、具体的に、どのように変わったか数字をご確認します。

1)原則の限度時間 (労働基準法36条4項)
時間外労働は月45時間、年360時間 となっています。
今までと同じですよね。

2)限度時間の特例
・休日労働を含み月100時間未満でないといけない(労働基準法36条5項6項2号)
・休日労働を含み2ヶ月ないし6か月平均80時間以内でないといけない(労働基準法36条5項6項3号) 注
・時間外労働は1年で720時間以内(休日労働を含まない) (労働基準法36条5項)
・原則の時間外労働の月45時間を超えられるのは年6回まで(従来通りです)(労働基準法36条5項)

注 少しわかりにくいと思いますので解説します。
これは、単月での法律上の上限は100時間未満ですが、
「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」
「5か月平均」「6か月平均」すべてで平均して、
80時間以内になっていないといけないということです。

この80時間、100時間という新基準の数字が設けられたのは、過労死のラインと関係しています。

以下の通達をご覧ください。

発症前1か月間に概ね100時間又は2ヶ月ないし6か月にわたって1ヶ月あたり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合には業務と発祥との関連性が強いと評価できる【脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準(平成13年12月12日基発1063号)】

休日労働は時間外労働とは別にして良いということになれば、
過労死ラインを大幅に超える長時間労働がが可能になってしまいます。
そこで、「休日労働を含んで」となりました。

事実上の労働時間(時間外+休日労働)の年間の上限は?

時間外労働の上限は720時間ですが、
時間外労働に休日労働を加えた年の上限
は960時間となります。

(2~6カ月を平均して)月80時間が上限ですので
80時間×12か月=960時間となるからです。

時間外労働+法定休日労働で年960時間という枠があり
その中に時間外労働年720時間という枠がある!
そのようにお考えください。

以上、法改正の内容はシンプルですが、
法改正に対応した労働時間管理を行おうとすると
かなり大変です。

こちらこそ問題かもしれません。

労働時間管理をどう簡単にしていくかについて
別記事で書いています。
(実務)時間外労働の上限規制に対応した労働時間管理
ヒントになる内容があると思いますので
労働時間管理について悩まれている
経営者・実務担当者の方はお読みください。

最後まで、お読みいただきありがとうございました

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